第8章 Good!!
では、よろしくお願いしますと、颯爽と出かけていった櫻井さんを、ただただ見送る。
はぁ……
昨日は、爽やかな青年でしかなかった櫻井さんの印象が、一瞬にして胡散臭いものにかわったことに、俺は大きなため息をついた。
彼の乗ったタクシーが遠ざかるのを見届け、のろのろと玄関に戻る。
なんだかなぁ……
髪をかきあげ、なんとなく天井をみあげると、じつに掃除のしづらそうな豪華なシャンデリア。
家政夫としての仕事はいくらでもありそうだ。
「仕事すっか………」
生活する場を手に入れて、仕事も手に入れたとあっては………少しくらいのイレギュラーには目をつぶるしかないだろう。
考えてもしょうがない。
することはせねばなるまい。
俺は、フルフルと頭をふり、ひとまず彼に渡されたクリアファイルを手に、ダイニングテーブルの椅子をひく。
ガラス天板のそれはとてもお洒落だが、指紋ひとつないテーブルは、ものを置くのもはばかられる。
椅子は椅子で背もたれがないに等しいし。
カードでロッキングチェアでも買ってやろうか。
ブツブツ呟きながら、俺は、クリアファイルの中身をだし、ザッと目を通した。
それには、家事に対しての様々なルールが書いてあった。
朝起きて電動シャッターをあけるところから、豆腐の切り方まで懇切丁寧にパソコン打ちされている。
洗濯機の場所、それを干す場所。
掃除する部屋、掃除道具の場所。
スーパーの場所、ストック品の場所。
櫻井さんが昨晩作ったのだろう。
これだけのものを作るのは大変だったであろうな。
まぁ、初日から丸投げしてくるんだからこれくらいの説明書は、当然だ。
俺は、ふむふむと読み進めていく。
すると、最後のページは、和也に関することだった。