第8章 Good!!
見たところ、この人は育ちがよい。
そして、きっと頭もいい。
はっきり言って、俺が今まで接したことの無い人種である。だからこそなんだろうけど………だいぶ俺の感覚と違うな、と思う。
昨日雇った人間を、趣味が釣りだからという理由で信じて、大事であろう弟を託す。
決断力があるといえば聞こえはいいけど、無茶苦茶だ。
きっと、世の中の暗い面なんざ、この人は知らねぇだろ、と思う。
っていうか、和也って弟も、変な奴だったらどうしよう……。
もやもやと考えているうちに、櫻井さんが、大きな目で真っ直ぐ俺の顔を見据えているのに気がついた。
その吸い込まれそうな澄んだ瞳は、俺が今考えていることを全て見透かしているようで、思わず身構えた。
………なんだよ
なんとなく居心地が悪くなり、口を開こうとしたタイミングで、櫻井さんが静かに問いかけてきた。
「……逃げますか?」
試すようなその言葉の裏には、やれるもんならやってみなという挑戦が確かに隠れてて。
「………逃げないっすよ」
こいつの思い通りにはなりたくないけど………ため息をついてそう返すしかなかった。
櫻井さんの瞳が一瞬細くなり、それから満足そうな笑顔にかわったのをみて、俺は内心舌をまく。
前言撤回だ。
こいつ天然なんかじゃねぇ。
マジのマジで、頭がいい。
善人ぶってる悪いやつのそれだわ。