第8章 Good!!
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当面の間の着替えと身の回りのものをかき集めたボストンバッグをさげ、俺は再び二宮家を訪れた。
留守中、家賃の回収に大家がくるかもしれないが、まぁいい。
給料が出たら、即、振り込めばいいし。
万が一そのまま追い出されたとしても、しばらくは二宮家に置いてもらおう。
……現金なもので、仕事が決まった途端、呑気な気持ちになった。
鼻歌交じりにインターホンを押す。
「おはようございます」
「お、はようございます」
相変わらず隙のない格好をしている櫻井さんが、爽やかな笑顔で、出迎えてくれた。
俺が、もごもごと返事をしたら、早速この家のスペアの鍵を渡される。
見たこともない形をしている。と思ったら、電子らしい。雨に濡れたらどーすんだ、落としたら壊れるんじゃねーか、と、ビビる。
「今日からよろしくお願いしますね」
「あ、はい」
「部屋は1階の客間をつかってください」
そう言って通された部屋は、俺のアバートの部屋が3個くらい入りそうな洋間だった。
小さなボストンバッグを遠慮がちに部屋のすみにおく。
高そうなベッドだなぁ……
自分のせんべい布団とはえらい違いだ。
ぐるりと部屋を見渡した。
高い天井も大きな窓も。
真っ白な壁紙も。
今までの俺の生活には全く無縁な設備で、なんだか戸惑ってしまう。