第7章 月虹
ところが、アクシデントがおきる。
本来の予定では、いつも通りの退社時刻にあがり、雅紀さんといつもの場所で待ち合わせて、のんびりと2人で帰るはずだったというのに。
クリスマスイブの前の金曜日とあって、みんな浮き足だっていたのか、そこかしこでミスが連発。
しまいには、退社時刻間際に、営業と営業事務の子との連携ミスで、とある取り引き先がゴネてしまい、上司である雅紀さんと部長が、相手の会社に直接話をしに出向かなければならなくなった。
マジかよ………
俺は頭を抱えたくなった。
部長と真剣な話をしてる雅紀さんをちらりちらりと盗み見る。
………どうしよう
雅紀さんの帰りを、ここで待つのも不自然だし。
1人でネットカフェでも行って時間つぶしとこうかな…。
足早にフロアを歩いてる雅紀さんを見ながら、パソコンの電源を落とした。
………とりあえず、することもないし退社しなくちゃなぁ。
ノロノロ立ち上がりかけたとき、雅紀さんがすっと俺の後ろを通った。
と同時に、カシャン、とブレザーのポケットに何かが入った音がした。
?
ポケットに手をいれるとざらりと革の感触がする。
そっと目を落とすと、それは雅紀さんのキーホルダー。
家の鍵がついてるそれを、託された意味は。
………帰って待っててってこと?
ドキドキしてその鍵をギュッと握りしめた。