第7章 月虹
当日まで、俺は不思議と穏やかな気持ちだった。
今までモヤモヤしていたことが嘘のように、心が澄み渡ってるのが自分で分かる。
予想外だったのは、思ってる以上に彼に大事にされてると分かってからは、俺の雅紀さんを想う気持ちも、倍くらい膨れ上がったみたいで、想いがダダ漏れになったこと。
「………ニノ。相葉ちゃん見る目がデレすぎやん」
横山さんに、苦笑まじりに耳打ちされる始末だ。
「………気をつけます…」
真っ赤になって俯くことも2度や3度ではなく、そのたびに横山さんが、くくっと笑ってぽんと頭を撫でてくれた。
そして、朝。
雅紀さんの家に泊まるために、下着とTシャツを小さく折りたたんで通勤用のリュックにつめる。
プレゼントは用意した。
雅紀さんの好きな焼酎も買った。
あとは………
ちらりと袋の底を確認する。
黒い紙袋がリュックの1番下に押し込んである。
ネットで密かに探し当てたものだ。
雅紀さんと深い関係になるために…きっと、これらが必要になるはずだから。
ぱんぱんになったリュックのジッパーを慎重に閉めて、ひとつ深呼吸する。
「行ってきます」
「はーい、気をつけるのよー」
母ちゃんの声を背に、いつも通り、出勤した。