第7章 月虹
横山さんは、口を尖らせて、まいったなぁ…という顔をする。
俺は、辺りを見渡して誰もいないことを確認してから、
「……相葉係長の悩みってなんなんですか」
と、小さく聞いた。
そこまで言われたら気になるじゃん。
俺に嫌われるかもなんて。
何を悩んでるというのだろう。
ところが、横山さんは、口をへの字にして首を振った。
「それは言われへん」
「え」
俺はずっこけそうになる。
ここまで話題振っといてそれってなくない?
「え、なんでですか」
それでも俺は食い下がった。
非常にデリケートな話題ではあるけど、直接雅紀さんに聞いたって、絶対俺には言わないもん。
「………教えてください」
「無理」
「お願いします」
「…………」
「嫌いになるかもなんて……そんなの」
そう言って唇をかむと、横山さんは、うーん……と、がりがりと頭をかいた。
基本、優しい人だから、こんなこと言ったら困らせるのは分かってるけど、今を逃したら、聞く機会はない。
俺が真剣な目で見上げると、横山さんは、ちらりと周りをみて、ぼそっと呟き始めた。
「これは、独り言やねんけどな」
「……………」
「経験上、身体の負担がわかるって」
「……………」
「ニノは初めてだろうから、痛い思いをなるべくさせたくない、と」
「……………」
「めちゃくちゃそーゆーことをしたいけど、同時にニノを大事に思ってるから、でけへんって」
「………………」
「なんか、頭抱えてそんなことゆーてたなぁ………あ、これは全部独り言やで」
俺は動けなかった。
……………泣きそうだった。