第7章 月虹
ただひとつ。
俺が悩んでることがある。
「カズ……」
「……………」
雅紀さんの家から、俺が帰るとき。
きまって、雅紀さんは俺にキスをする。
それも、壊れ物を扱うような優しい優しいやつを、だ。
雅紀さんの唇は柔らかくて、大きな胸で抱きしめられたら温かくて、それでいていい匂いがして…………そりゃ、最初は俺だってうっとりしたさ。
優しいキスは、すごく気持ちがこもってて。
ああ、俺ってこの人とつきあってるんだなって、幸せをかみしめることができる瞬間だし。
でも。
「おやすみ、カズ。明日ね」
「おやすみなさい」
車のウインドウ越しに手を振り、彼ののる車のテールランプを見送りながら、唇をかむ。
毎回送ってくれるのは嬉しいが………
…………雅紀さんは、もう一歩踏み込んだ付き合いは、望んでないのかな。
ただいま、と家に入りながら、この頃思うのだ。