第6章 春の虹
それからしばらく、俺は、何も手につかなかった。
相葉さんに嫌われたくないから、仕事はちゃんとするけど、ふっと気を抜くと、心ここにあらずといった状態になる。
寂しいのと、苦しいのと………あきらめきれない好きという想いがごちゃごちゃになって俺を押しつぶす。
……行っちゃ嫌だって、子供のように泣けたらどんなにいいだろう。
俺は、痛む胃をおさえながら、書類の束をめくるふりをして相葉さんを盗み見た。
みんな外回りから帰ってきて、デスクワークをしてるこの時間が、今の俺には何よりも大切な時間だった。
相葉さんの独り言や、たまにする話し声をききながら、仕事をするのはあと何日なのだろうか。
……こんなに好きになってしまった相手が、いなくなるなんて考えたくない。
報われない恋なのは最初から分かっていたけど、こんな結末あんまりだ………。
俺は唇をかむ。
くわえて、相葉さんが、いつまでたっても俺に何も言ってくれないのも、モヤモヤする原因のひとつだった。
横山さん情報によると、相葉さんは栄転で関西支社に行くらしい。
昇進するのだから、本来、とてもめでたいことなのに、ぜんぜん喜べない。
なんで俺には、何も、言ってくれないの。
いくら内示の段階だからって。
1週間前に、実は…って言う気なんだろうか。
俺は、そのへんのモブキャラ扱いなの?