第4章 夕虹
自分本位の行為を終えたそいつは、ちゃっちゃと後始末を終えると、シャワーも浴びずに手早く帰り支度を始めた。
その動きで、こいつは家庭持ちの男なんだな、と分かる。
遊んでるということを家人にばれたくないやつは、行為後のシャワーなんてしない。
ボディーソープやシャンプーの匂いの違いで、遊んでることを知られることを避けるためらしい。
滑稽だな……と、思いながら、うつぶせたまま動けない俺は、ぼんやりとそいつの動きを目でおう。
すると、ジャケットをはおり帰り支度のすんだ彼は、内ポケットから封筒をだし、ベッドサイドのテーブルに置いた。
「小遣いだ。とっときなさい」
「……ありがとう」
「良かったよ……サトシ。また店に予約いれるから」
「うん……待ってる」
足早に部屋をでてゆく彼を見送り、俺はゆっくりと息を吐いた。
体を差し出して、相手の欲を満たしてやり、見返りに金をもらう。
それが俺のしてる、もうひとつのバイトだった。
カジュアルバーの裏で、店長が切り盛りしてるこの仕事は特殊で。
駒は、俺ともう二人ほどしかいない。
クチコミでしか知る術のない、本当に知る人ぞ知る店だ。
店長が誰からの紹介か確認したうえで、前金を受け取り、ここのホテルのキーを客に渡す。
俺たち駒は、言われた時間にそこに向かい、セックスをする。
後日店からバイト料をもらう仕組みだ。
俺らが客から直でもらう小遣いは、暗黙の了解でそのままポケットにいれていい。
めちゃくちゃ儲かるわけではないが、ただのフロアスタッフにくらべれば、何倍も入る金は違う。
抱かれることに抵抗がないわけではない。
でも手っ取り早く金が入るこのバイトを打診されたとき、断る理由は俺にはなかった。
カチャリと、鳴ったオートロックのドアの音を確認して、俺はだるい体を、ゆるゆるとおこした。
「……って……」
しつこいセックスだった。
なかなかイきやがらないから、その間ずっと突っ込まれたまま、何度も何度も突かれて。
下半身が異常に熱くて重い。
震える手を伸ばして封筒の中身を確認する。
「……諭吉10人……まぁまぁか……」