第6章 春の虹
……そして、考えてみれば、まぁ、当然といえば当然かもしれないが。
「イートイン…7時までだって」
華やかな店の前の看板を前に、相葉さんが、がっかりとした声をあげる。
「そうみたいですね…」
俺もその可愛らしい文字を、残念な思いで見つめた。
2人ともちょっと浮かれてたから、大切なことが抜け落ちてたかも。
飯を提供する場でもないのだから、クローズは早いことくらい、当たり前の話だ。
「今何時…あー…7時半か」
店自体は、まだ開いてるから、ガラス張りの向こうで店員が忙しく動いてるのがみてとれる。
流行ってる店みたいで、ショーケースのケーキはほぼ完売に近いけど、かろうじてまだ残ってる。
相葉さんは、ちょっと考えて、俺の顔をみた。
「俺ん家来る?」
「え?」
「買って帰って、俺ん家でお茶しようか」
「いや…その、ご迷惑じゃ」
「迷惑なら誘わないよ。来る?来ない?」
ドキドキした。
「……じゃあ。少しだけお邪魔します」
小さく返すと、相葉さんは、嬉しそうに頷いて、待ってて、と店の中に入っていった。
ケーキを食うだけ。
それだけの目的は分かってるはずなのに、なんだか胸が高鳴った。