第6章 春の虹
「あの副課長は絶対ヅラやで」
「…マジですか」
「おう。こないだ、前後ろ逆やったもん」
「うそー絶対嘘だ!」
「ほんまやって!」
ヨコの話の信ぴょう性を問う、3人の掛け合いが、マジで面白い。
基本、真面目な勝利と、素直な二宮くんだ。
騙しがいがあるというか、からかいがいがあるというか。
俺は、ハイボール片手に彼らの会話をニコニコと聞いてる。
「そんなら、今度、よぉーくみてみ。生え際のとこ」
「無理ですよ。みれませんよ…」
「そぉーっとみんねん」
「無理ですって」
「ね……あれ……ちょっと失礼します」
勝利がポケットからスマホを取り出し、店からでてゆく。
俺は、二宮くんの残り僅かになったグラスをみて、店員に手をあげながら、メニューに目を走らせた。
「二宮、おかわり頼むか」
「あ-…じゃあ、ジンジャーエールを」
「ヨコは?」
「俺、ウーロンハイ」
「勝利…は、帰ってきてからでいっか」
自分の分と3人分オーダーして、しばらくすると、焦った感じの顔をした勝利が戻ってきた。
「どした?」
「あの……すみません、俺ちょっと失礼していいですか」
「……なんかあったんか」
「母が、家で階段踏み外して、動けなくなってるみたいで。病院連れてってくれって……」