第6章 春の虹
「二宮は、数万の損失ですんだけど、俺は数百万。あの時はマジでクビだと覚悟した」
「……………」
基本、ミスに大きい小さいも関係ない。
ミスはミスだ。
………でも、金額の規模の大きさに息を飲む。
絶句した俺をみて、相葉さんの視線がゆっくりとキッチンカウンターに向いた。
「…その時に助けてくれたのがあの人なんだ」
つられるようにそちらを見ると、相葉さんの強面の恋人が、優しく微笑んでるワンショットの写真が飾られてる。
相葉さんが料理をしながら、ちょうど目に入る位置に、その写真立てはあった。
……相葉さんの料理の優しさの秘密が分かる気がした。
「決済前だったのが幸いしたから、あの人が各方面にすべてお詫びの電話して、当日の夜中までかかってシステムも全部入力し直して。なんとか損失はおさえれた」
「…………」
「俺が、今もこの会社にいれるのはあの人のおかげなんだよ」
「そのときは………もう恋人同士だったんですか」
俺の思わず聞いた無粋な質問に、相葉さんはふふっと笑って首を振る。
「ううん……でも…だから、俺はあの人に恋した」
「……………」
初めて聞く話だった。
サトのお父さんと、相葉さんが同じ会社で働いていたなんて。
そして、恋の始まりがこんなきっかけだったなんて。
………素敵だな、と素直に思った。