第6章 春の虹
平社員である俺がやらかした、というよりも、会社的にはその後のダブルチェックが機能しなかったのが問題らしい。
俺は、特になにもお咎めはないのに、俺の直属の上司である部長と相葉さんは、始末書を書かされるとのことで、申し訳なさすぎて肩身が狭いことこのうえなかった。
「あの…ほんとにすみませんでした」
業務が終わってから、パソコンにむかってる相葉さんにそっと声をかけてコーヒーを差し出すと、相葉さんは、ありがと、と、穏やかに微笑んだ。
「気にしないで。この程度で終わって良かったじゃん」
「でも…」
あの見積もりをチェックしたのは、別の役席であって、相葉さんは何も悪くないはずなのに。
部下をきちんと指導できてない、と、会社は評価するようだ。
相葉さんは、ずずっとコーヒーをすすり、少し声をひそめた。
フロアには、就業時間はすぎたとはいえ、まだ何人か人がいる。
「…二宮が、俺のかわりに、チェックしてもらったあの役席は、歳はいってるけど、あんまり頼りになんないんだよね。ここだけの話」
相葉さんは、イタズラっぽく舌をだした。
「次はさ、俺がいなくても、必ずパソコンは持ち歩いてるからメールに添付して俺にとばすか、どうしても俺がダメだったらヨコにチェックしてもらいな。」
「…横山さん…ですか」
あの人も平社員だけど。
俺が怪訝な顔をすると、相葉さんは、察したのかふふっと笑った。
「俺が鍛えた後輩だから。あいつは頼りになるよ」
「………はい」
騒がしいだけの人じゃないんだ。
さすが、相葉さんの仲間はすごいな、と思った。