第6章 春の虹
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その日の報告書をまとめていると、部長の俺の名を呼ぶ声に気づき、顔をあげる。
ちょっと来い、と視線で呼ばれ慌てて立ち上がった。
顔は普通だが、いつもの穏やかな声音ではないそれに、直感で嫌な感じだと思った。
「はい」
小走りで、部長のもとにいくと、相葉さんもデスクの端に立っていた。
その彼の神妙な表情に、心臓がいっきに加速する。
……え、なに。俺なんかやらかしたっけ…
内心焦りながら、我が身を振り返っていると、部長がクリップでとめたコピー用紙の束から、俺をちらりと見上げた。
「二宮、おまえこないだY商事の契約とってきたよな」
「…はい」
「先方への見積もり、あれはお前か」
「はい…」
頷くと、相葉さんが、まいったー…という顔をして、俯いた。
部長は、はぁ…、とため息をついて、持ってる紙の束をバサリと放り投げた。
「これ、相葉のチェック入ってるのか」
「いえ…」
俺は、ドキドキしながら小さく首を振る。
相葉さんは、その日遠方に行っていたから、もうひとりの役席にみせてから、メールをとばしたはずだった。
「これな、項目がひとつぬけてんだよ」
「えっ…!」
俺は、思わずその紙を手に取った。