第6章 春の虹
目の前に、すっと見覚えのある俺のパスケースがだされた。
「はい」
「あ…ありがとうございます」
両手で思わず受け取った。
定期をなくしたら、洒落にならないとこだ。
どうやって落としたんだか。
「免許証も入ってんだろ。気をつけなくちゃ」
「すみません…」
優しく言いながら、相葉さんは、俺の目の前の椅子をひくもんだから、俺はギョッとして顔をあげた。
……え?
てっきり、パスケースを渡したらすぐに帰ると思っていたのに、相葉さんは近くを通った店員をつかまえて、
「生一つと、唐揚げちょうだい」
流れるようにオーダーをすませて、俺に向き直りニコリと笑った。
「せっかくだから、唐揚げも食べて帰りたいなと思って。いいだろ?」
「…よく食べますね」
「うん。ここの大好きだしさ」
「そう…ですか」
俺は迷って、自分のほぼ手付かずの枝豆の皿を、相葉さんに、どうぞ、とおしやった。
相葉さんは、ありがと、とおひさまのように笑った。
………………。
真っ黒でジクジクしてる俺の胸に、光がふわっと差し込んだ気がした。