第6章 春の虹
上着を脱いだり着たりしてるうちに、ポケットから滑り落ちたのか。
帰り際は、心ここにあらずといった感じだったから、気がつかなかったのだろう。
明日、会社で、落ちてたぞ、と、渡してやればいいことだ。
でも…
「俺、帰りに届けるよ」
「えー係長あまーい」
勝利が、マジで?と言う顔をする。
「落としたのはあいつが悪いんだから、係長がうごいてやるのおかしくないですか」
「うん、でも、まぁ俺、家が近いし。あいつ、明日の出勤も実費は困るだろうし」
「相葉ちゃんはやさしいなぁ~、俺やったら、ありえへんわ」
ヨコがからかうのを、なんとなく上の空で聞いた。
一歩間違えたら泣きそうな風に見えた二宮くんの顔が
忘れられなくって。
なんだか、ちゃんと家に帰ってないような予感もしていた。
「そ。俺、優しい上司よ?今頃気づいた?」
「えらいすんまへん」
1つ下のはずなのに、タメ語を許しているヨコが、てへっと笑った。