第6章 春の虹
「仕事は順調?」
「うん。今度、俺のデザインが採用されることが決まったから、2人で祝杯あげてるの」
「すげ。やるじゃん」
「ふふ…」
智は恥ずかしそうに笑った。
潤と出会ってから……正確にはつきあいだしてから、智は明らかにかわった。
感情が豊かになり、自分の未来を考えるようになった。
きっと、俺だけじゃこうはならなかっただろう。
瞳がキラキラしている智は、とてもよい顔をしてる。
そんな智を愛おしそうにみつめる潤は、年下ながらとてもしっかりしていて、智のことを心から思ってくれている。
…彼らが一緒に暮らしだしたとき、俺は智を嫁にだした気分だったもんな。
今は、仕事が忙しいのもあり、数ヶ月に1度くらいしか2人には会ってなかったから、
「1杯ずつ奢ってやるよ。好きなの頼みな」
財布から1万円札をぬきとり、智のポケットに滑らせた。
智はあわてて、
「え、いーよ。悪いよ」
と、返そうとしたが、俺は、ひらひらと手を振って踵を返した。
「御祝儀だよ。足りないのは自分らで払えよ」
「もぉ…」
「すみません。ご馳走になります」
潤が礼儀正しく、椅子からおりて礼をする。
いい子だな。
「また遊びにおいで」
俺は、それだけ言ってその場を離れた。