第6章 春の虹
Aiba
「なんやねん。あいつ」
「……急用って言ってましたね」
ヨコと勝利は、足早に消えた二宮くんを見送ってから、しきりに首を傾げてる。
俺も、彼の強ばった顔に、ただならぬ理由ができたのだろうな、と感じとった。
部下としてみても、智の友達としてみても、二宮くんは、とても良い子だ。
周りをよくみてるし、自分の立場もわきまえてるし、失言もないし、仕事も早い。
異動前も、異動後も、取り引き先はもちろん、会社の人間とのトラブルなんかは聞いたことない。
だからこそ、俺ら上司や先輩との飲みを中座するなんて考えにくいのだ。
「……よっぽどのことが起きたんだろうよ。」
俺はそれだけ言って、メニューに目をおとした。
一緒に飲むことができないのが、ちょっと残念だな、と思った。
……そして、理由はわりと早く判明した 。
多分この場にいる俺しか分からない。
ヨコが、最初に接客してくれたスタッフに何やら耳打ちされて、
「ちょい、健ちゃんに来たよー、だけ、ゆーてくるわな」
嬉しそうに、立ち上がったときだ。
健ちゃんって人は、バーテンダーだったな、と思って、つられるようにカウンターの方向に視線をやり、……ハッとした。