第6章 春の虹
「日替わり売り切れちゃっててさ」
言って、相葉さんは、大きな口でご飯をぱくりと食べた。
ここの社員食堂はおいしくてリーズナブルだから、常に賑わっている。
日替わりメニューも大人気なのだが、先着順だから、今日みたいに時間が遅いと、食べ損ねる。
「昼時間過ぎてますしね…係長もお忙しかったんですね」
「うん。外から帰ってきたら、女の子にクレーム対応してくれって電話渡されちゃって、この時間」
「…お疲れ様です」
「ほんとだよ(笑)…あれ。二宮、飯、蕎麦だけ?」
「はい」
「夕方までもつの?このチキン食う?」
「いやいや、大丈夫です」
俺は笑って首を振った。
相葉さんを見て、智を思い出して、心がザワついて…と、最初こそ少し不安定だった俺だが、次第に仕事の忙しさのおかげか、それらも紛れていっていた。
大体、智に会うことはないわけだから、今までと何もかわんないんだ。
さらに、むしろそのせいで、初日に恥ずかしいところを見せてしまった相葉さんに対しては、今更怖いものもなくって。
確かに相葉さんは智の恩人ではあるのだが、俺にとっては信頼のおける頼りになる上司という認識が定着し、最近では、話していて楽しいと思える人にまでなっていた。