第6章 春の虹
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桜が散り、緑が深くなり、季節は梅雨へと移り変わる。
得意先から戻った俺が、遅い昼食をとってると、
「隣いい?」
穏やかな声がふってきた。
俺は、すすってた蕎麦をごくんと飲み下し、顔を上げる。
「…係長」
相葉さんは明るくニコリと笑い、お疲れ、といいながら俺の横に、よいしょ、と、腰をおろした。
「遅い昼飯だね。忙しかったのかい?」
いいながら、相葉さんは、味噌汁に手をのばす。
トレーの上には、チキン南蛮と山盛りのご飯。
俺よりだいぶ年上のはずなのに、食うものは俺より若いな、と思った。
なんだか笑える。
「……ん?」
黙ってしまった俺に、相葉さんは、わんぱく坊主の如く口いっぱいに肉を頬張りながら、俺を覗きこむから、もっと笑いがこみあげた。
最近分かってきたのだが、この人は、落ち着いてるようで、意外とセッカチ。
素敵な大人な男性なのに、こういうとこ子供っぽい。
俺は水の入ったコップを相葉さんに差し出して、今日取ってきた契約を説明する。
「はい。ちょっと大きな話がまとまりそうで」
「ほんと。よかったじゃん。どこ?」
「Y商事です」
「そっかー」
相葉さんは、自分の事のように嬉しそうに笑った。