第6章 春の虹
いやいや、しっかりしろ俺。
上司に送ってもらうとかありえないし。
俺は、パソコンの電源を立ち上げてる相葉さんに一歩近づいて勢いよく頭を下げた。
「あの。昨日はご迷惑おかけしてすみませんでした」
「…昨日?…全然迷惑なんかじゃないよ」
相葉さんは、きょとんとしたあと、一転して楽しそうな顔になった。
「むしろ二宮の素の顔が見れて面白かった」
…素。
やばい。
いらないことべらべらしゃべったのだろうか。
焦る。
身の上話とかしてたら最悪だ。
記憶がないって、こんなに怖いもの??
「え…俺、何か変なこといいましたか?」
慌てて食いつくと、相葉さんは首を振った。
「言ってないよ。あ、でもなんか、ちっちゃくいろいろくだ巻いてて可愛かったな」
「…か、かわいいって」
俺は目を白黒させて、戸惑う。
…可愛いなんていわれたことないっての。
「送ったのは、たまたま通り道だったから、ってのもあるし。
あ、ごめん、それは免許証見せてもらったんだけどね。二宮の家って俺んちから近いってのがわかってさ。だから、気にしないで」
ほら、今日の準備にとりかかれよ、と相葉さんは朗らかに笑った。
その明るい笑顔に突き動かされるように、俺はギクシャクと頭をもう一度下げ、自分のパソコンを開いた。