第6章 春の虹
「じゃあ恋人は?」
中丸の言葉に、俺はどきりとして思わず相葉さんを見上げた。
詳しいことはよく知らないけど……相葉さんは、さとの死んだ父ちゃんの恋人だったという話だけ、聞いたことがある。
あの頃は、相葉さんのこともあまり知らなかったし、そうなんだ……としか思わなかったけど。
いざ、本人とこういう風に顔をあわせると、どう反応してよいものか戸惑う。
相葉さんは、どう答えるのだろう。
それとも、あれから長い時間がたっているから新しい恋人いるのかな。
知らず息をつめて相葉さんの表情を見つめた。
相葉さんはそういう質問を受け慣れているのか、長い前髪の下で、微かに瞳を細め、微笑んだ。
「いるよ」
…………
相葉さんはキッパリと言い切った。
中丸は納得したように、うんうんと頷く。
「やっぱり。そりゃいますよね」
「……でもね、遠くにいるから会えないんだ」
「……ああ。遠距離恋愛なんすね!」
「うん。そんな感じ」
中丸は、へぇ~じゃぁ寂しいですね、なんて言ってるけど。
…………
事情を知ってる俺は、遠距離恋愛が嘘なのはわかってしまった。
さとの父ちゃんのこと……相葉さんはまだ想い続けてるんだ。
こんなに長い時がたってるのに。
二人は二度と会うことはかなわないのに。
……そんなのって……
なんだか切なくなって、何も言えずにいると、
「どした?」
相葉さんが、黙りこくる俺を見て、心配そうにのぞきこんできたから、俺はあわてて首をふった。
「や。なんでもないです!」