第6章 春の虹
一日中、相葉さんと取引先をまわり、俺の持てる全てのコミュニケーション能力を総動員して、挨拶しまくった。
おかげで、顔の筋肉が痛い。
帰社後、心身ともにへとへとになりながら、その日の報告書をまとめてると、隣の席の相葉さんが、俺のパソコンをのぞきこみ、仕事の進捗状況を確認して、
「よし。それ終わったら飲みに行くかんね」
と、いった。
「……え?」
「君らの歓迎会だよ。このフロア全体の歓迎会は別日にやるけどさ。とりあえず、内輪で一回やっといたらお互いのことがわかって、仕事もしやすくなるでしょ?」
「……あ……はい。大丈夫です」
正直面倒だと思ったけど、付き合いというものは大事にしなければというのは、ここ数年で学んだことだ。
「係長、チェック願いますか」
そのとき、可愛らしい小柄な社員が相葉さんになにやら書類の束を持ってきた。
……ん?カカリチョウ?
「うん。あとでまとめて見とくからそこおいといて。それより勝利、今日来れる?」
「飲みですよね?大丈夫です」
「よかった。いつもの店ヨコがおさえてるはずだから、頭数よろしく」
「わかりました」
…………
俺が、ぽかんとしていたからか、相葉さんが、俺を見てぷっと吹き出した。
「なに?」
「……カカリチョウ?……」
「……肩書きだけはね。でも二宮くんは、相葉さんでいーよ」
「いえ!そーゆーわけにはいきません!」
なんで、最初に言ってくんないんだよ!
俺は、もげそうなほど首を振った。
相葉さんは、おかしそうに腹を抱えて笑った。