第6章 春の虹
朝礼をおえ、解散となった俺らは、それぞれの先輩のもとに向かう。
俺は、グレーのスーツをシャキッと着こなしている相葉さんにおそるおそる近づいた。
Tシャツにジーパンだとか、スエットだとか。
リラックスモードのこの人しか見たことはないけど……スーツを着てるというだけで、迫力は5割増しだ。
柔らかな印象しかなかったけど、できる男は違うんだな、と、思う。
しかも、彼はさとの恩人というだけで、俺自身はそんなに接点はない。
さとの部屋に泊まってるときに、時々差し入れを持ってきてくれたりしたときに会うくらいだ。
緊張する。
俺は、懸命に自分を叱咤して、「あの……」と、声をかけた。
すると、相葉さんは、にっこりと人のよい笑顔を浮かべて、手を差し出してきた。
「……二宮くんだよね。智と仲良くしてくれてた」
「……はい」
「異動のメールみて、まさかな、とは思ってたけど。おなじ会社に入社してたなんて、すごい偶然だね」
「はい……あの、よろしくお願いします」
「ふふ……よろしく」
ぺこりと礼をすると、相葉さんはおひさまみたいな笑顔になった。
ああ……あのころとかわらない優しい笑顔だと思った。
おずおずとその手を握ると、ぎゅうっとあったかい手のひらが俺の手を握った。
大きな手だった。