第6章 春の虹
あらあら、と、母ちゃんがさし出してきたお茶をごくごく飲み干し、なんとか呼吸を整える。
「辛いよ……これ」
「え~そぉかしら?」
麻婆豆腐の味付けに文句をつけるふりをして、動揺しまくってる自分の気持ちを静める。
母ちゃんは、そんなことに気づきもせず、のんきに自分の湯飲みにもお茶を注ぎながら、懐かしそうな顔をした。
「さとちゃん……元気かしらね」
「……さぁな」
「冷たいわね。よく泊まりに行ってたくせに」
「……昔の話だろ」
「連絡はとってないの?」
「……とってない」
「ふーん……男の子ってドライなのね」
ドライか……
俺は、唐揚げを咀嚼しながら、かつて好きだった男の面影を思う。
めんどくさがりで、人嫌いで、なのに……甘えん坊で繊細で。
芯の強い男だった。
好きだった。ほんとに。
まさか、ぽっと出てきた同級生にとられるなんて思いもしなかったけど。
俺に向けられるふにゃりと微笑む顔も、柔らかな声も……全てをあきらめるために、大分時間を費やした。
綺麗に自分の気持ちにはけりをつけたつもりだったけど……名前をきくだけで動揺するなんて、修行が足りないよな。俺も。
自嘲しつつ、ポテトサラダを頬張った。