第4章 夕虹
「朝のバスが最近同じでさ」
俺は、風間に、行こうと声をかけ、歩き始める。
風間は、へぇーと驚きながら、もう一度大野さんを振り返り、小走りに追い付いてきた。
「え……なに。最近ってどういう意味?」
「雨だから、いつもの通学時間かえたんだってさ」
「ああ……まぁ道が混んだら嫌だしね」
風間が納得、と頷いて窓の外を見るから、つられるように目をやる。
しとしとと降り続く雨は、今まで鬱陶しかったが……不思議と最近はそうでもなく、むしろ楽しい。
それは、朝、大野さんと会えるからなのだろう、と思った。
俺は、始発にほど近い停留所から乗るから、必ずと言っていいほど座れる。
一方大野さんは満員に近い状態で乗ってくる。
入り口でぎゅうぎゅうになるのがしんどいからか、いつも人波を泳ぐように座席近くまでやってくる。
そこで、ようやく息ができた、というようにぷはっと息を吐く。
そんな仕草をみるのが楽しくて、大野さんが乗ってくる停留所がちかづくと、俺はそわそわするようになった。
そして、大野さん自身も、俺を見つけるとニッコリしてくれるようになった。
俺は、毎回大野さんの顔色をチェックして、もし悪かったら席を代わってあげようと思ってる。
もっといえば、それを大義名分に、大野さんに会おうとすら思ってる。
それくらい、大野さんと顔をあわせるのが日課になりつつあった。