第5章 白虹
「もぉ……熱いから気をつけないと………氷水いるかい?」
雅紀さんが、俺の反応をみて、保護者の顔にもどる。
俺は、首を振って、苦笑いした。
「大丈夫。ねぇ、それよりさっきからいい匂いしてるんだけど、なあに?」
話題をそらす狙いも含め、ずっと気になってることを雅紀さんにたずねた。
すると、雅紀さんはキッチンをふりかえり、目を細めた。
「フィナンシェ焼いてるんだ。……もうすぐできるよ」
「……フィナンシェなんて、作れるんですか?!」
潤が驚いたように、恥ずかしくてうつむきがちだった顔をあげた。
俺は、うんうん、と頷く。
「……雅紀さん、なんでも作れちゃうから」
「そんなことないよ。フィナンシェは初挑戦。うまくできてたらいいけど……ぁ、できた」
ピーピーというオーブンの音を聞き、雅紀さんがちょっと待っててね、と、席を立つ。
「すごいなぁ……雅紀さんて」
ふと、隣を見やれば、尊敬の眼差しで、頬杖をつき雅紀さんの後ろ姿を見送ってる潤。
素直なその反応に、俺は微笑ましくなった。