第4章 夕虹
それにしても綺麗って……。
俺は内心げんなりだ。
下級生にまでそんな噂がたってるなんて。
見た目で騒がれるなんてほんとに迷惑。
静かに暮らしたいのに……やめてほしい。
俺が黙ってるのを、何かまずいことを言って怒らせてしまったと勘違いしたのか、彼が戸惑うような表情をしてることに、ふと気づいた。
ダメだな。
八つ当たりなんかしちゃ。
俺は、ふっと小さく息をついて、彼を見上げた。
「君は?」
「え……?」
「名前。なんていうの?」
すると、彼は、ホッとしたように頬を緩めた。
「……松本」
「松本?」
「うん」
頷いて照れくさそうに笑う彼は、なんだか可愛らしくて好ましい。
どうみてもイケメンでカッコよい部類だろうに、可愛いなんて思ってしまうのは、二個も下だからだろうか。
なんだか、ニノのように、弟みたいな感覚で見てしまう。
「よろしくね」
改めて俺が笑いかけると、松本も、よろしく、と傘のなかで頭を軽く下げた。
細かく降る雨で、俺らのまわりは、ベールのように閉ざされ。
二人きりの空間で、遠慮がちに笑いあったこの日が、松本とのつきあいの始まりだった。