第4章 夕虹
こないだは、自分自身に余裕がなくて、あんまり彼のことをみてなかったが。
見事にふわふわにうねってる髪の毛。
でも、派手な顔立ちによく似合ってるなと思った。
「うん。バリバリ天然。俺、雨がふると駄目なんだよなぁ……」
そういって頭をかいてみせるから、俺は思わず笑ってしまった。
「それは、梅雨時期は困るね」
「そう。早く明けてほしい……」
言いながら、その子は、あ、という顔をした。
「ごめん。こないだ借りたハンカチ、こんなにすぐに会えると思わなかったから持ってきてなくて」
「ああ……いいよ、あんなの。あげる」
「そういうわけにいかないよ。また会えた時に返すよ。あの……大野さんっていつもあの時間のバス?」
「うん。いつもはもう一本遅いんだけど。雨だから道が混むかもと思って、最近はこれに乗ってる」
言いながら、あれ?と思った。
「俺……名前言ったっけ……?」
すると、その子は、ううん、と首を振る。
「俺の友達が知ってた。大野さんって有名人なんだね」
「……どういう意味」
思わず、とがった返事をしてしまい、その子はあわてて違う、悪い意味じゃない、と否定する。
「あの……友達が、すげー綺麗な人が三年にいるって言ってて。その人の特徴があなたにぴったりだったから……それで。あ、あと二宮にも聞いたし」
あたふたと言い訳をしてるその子を見て、ひそかに安堵の息をはく。
バイトをしてることがばれたらまずいから、目立たないように暮らしてるのに……有名人なんていうから、びびった。