第5章 白虹
恋人同士になってから、この部屋に松本を呼ぶのは初めてだ。
互いに少し緊張してるような気もする。
アパートに到着し、繋いだ手をほどいて、鍵をあける間、松本は黙って佇んでいて。
「お邪魔します……」
そのあと、小さく言って、三和土のスニーカーを生真面目にそろえる背中に、笑いがこぼれた。
「どうぞ」
言いながら部屋の電気をつける。
昨日の夜に、あらかた片付けてたから、俺の部屋にしたらこざっぱりしてる方だ。
手を洗った松本は、緊張を振り払うように、あー腹へった!と、大きな声をだした。
俺はというと、ジャケットを脱いだ松本に、しまった……と、思いながら、手をあわす。
「ごめん、うち、ハンガーなくって……ジャケット、そのへんにかけてくれる?」
「全然平気。大野さん、はやくこっち座ってよ。食べよう?チキンが冷えるよ」
松本は、小さなテーブルにがさがさとビニールから買ったものを並べだす。
俺は、そろいのマグカップを手に取り、うん、と返事をして振り返った。