第5章 白虹
俺の誕生日は、父ちゃんが死んでからというもの、祝ってくれるのは、専ら雅紀さんただ一人だった。
雅紀さんは、俺が不安定なときも、雅紀さんの家をでてからも、この時期になるといつもかわらず優しい笑みで、
『智?なにか欲しいものあるかい?』
ってきいてくれた。
でも、俺がなにもいらないというと、それならば、と、洋服から靴までのコーディネート一揃い買ってプレゼントしてくれて……。
ありがたいけど、でもその方がかえって高くつくということに気がついてからは、帽子が欲しいといってみたり、鞄が欲しいといってみたり、ささやかな要望を伝えるようにしている。
でも、それは雅紀さんが大人で、収入のある人だからこそだ。
「でさ、何が欲しい?」
じゃあ、目の前でにこにこしている年下の恋人に、欲しいものを聞かれたとて、何を要求したらいいのだろう?
映画鑑賞後に入ったファーストフード店。
向かいあって、ポテトを食べながら楽しそうにきいてくる松本に、俺は、アイスティーのストローをいじりながら、
「……ええ……別になにもいらないよ」
と、いうしかなかった。