第4章 夕虹
雨かぁ……
濡れるし、蒸れるし、おまけにこの時期のバスは、独特の匂いでくさいし。
雨はあまり好きじゃないんだよなぁ……。
こないだも、めったに酔わない俺がバス酔いしたほどだ。
体調が悪かったせいもあるけれど、死ぬかと思った。
あの黒髪イケメンに助けられなかったら、その場で吐いて、きっとマジ大惨事だった。
今日は大丈夫だとは思うけど……。
オレンジジュースの残りを飲み干して、マグカップをシンクに置いた。
テーブルに散らばるスマホやキーホルダーをポケットにいれて、最後に黒ぶちのメガネをかける。
目が悪いふりをしてるけど、実は伊達だ。
オンオフのような、これは俺自身の切り替えのスイッチみたいなもの。
年をごまかして、夜のバイトをしてる大胆な大野くんと、真面目に学校へ行く地味な大野くんを、自分で使い分けないと、俺自身が壊れそうだったからだ。
だから、しんどいから休みたいという怠けたい心も、ある程度叱咤できる。
高校を留年するわけにいかない。
幸い成績は中くらいをキープできてるし、出席日数さえ気をつけてれば卒業できるはずだった。
「……よし」
小さな鏡で、身だしなみを簡単に点検し、扇風機のスイッチを足でぱちんと消す。
「いってきます」
サイドボードにある父ちゃんの写真に声をかけ、俺は部屋の電気を消した。