第4章 夕虹
中庭に場所をうつし、並んでテキストを開いた。
吹く風が爽やかだ。
ふわりと松本の髪がゆれるたびにいい匂いがする、
俺は、気持ちまでゆらゆらしないように気を付けながら、松本のテキストに遠慮なく鉛筆で丸をつけ、ひとつずつ読ませていった。
昔の仮名遣いなんか、読んで覚えるしかねーもん。
「これは?」
「る……なか」
「『ゐ』、は、『い』って読むの」
「イナカ?……あ、田舎!」
「……正解(笑)」
レベルがどうとかいってる場合じゃない。
壁をつくっていたのも忘れて、俺はいつしか夢中で説明しては、教え込んでいってた。
しまいには、素直な松本とのやり取りをしてるうちに、笑顔もこぼれてくる。
「嘘でしょ?これは?」
「あふ…………ぎ」
「扇」
「えー……読まねぇよ」
「読むんだよ。もう……先に進めないじゃん(笑)」
くすくす笑うそんな俺をみて、松本は、ふと感慨深げな顔になった。
「…………なに?」
「ううん……大野さんが笑ってくれたって思ってさ」