第4章 夕虹
「……なんかさ、三宅さんたちって、魔法のような手つきでカクテル作っていくじゃん?すげーなぁって思っててさ」
「……うん」
「カクテルの名前も……こんなにいろいろ種類あるんだね」
「……そうだよ」
「奥深いね」
「……そうだね」
…………
知らなかったよって、笑う松本には、なんの計算もないようにみえた。
俺に気をつかう、とかじゃなくて、本当に自然体。
……でも、俺の様子が最近おかしいことには、絶対気がついてるはずだ。
だって、時々、どうしようもなく切ない顔をする。
でも……触れないんだね。そこには。
だから、俺も触れない。
俺は、静かに松本の隣に座って、何食わぬ顔で机に積まれてるテキストをめくった。
松本も、図鑑を脇に押しやり、俺に体を近づける。
「……で、何がわかんないの?」
「全部」
「……え?」
「読み方がわかんない」
「…………」
俺は思わず周りを見渡した。
これは、喋り続けないとダメなやつ。
こんな静かな場所では、教えれない。
「……ちょっと場所変えよう」
俺は、立ち上がり、外を指差した。