第4章 夕虹
廊下を歩いてたら、優しい声が俺を呼び止めた。
「大野さん」
振り向けば、たくさんの教材を手に、松本が満面の笑みで駆け寄ってきた。
その仔犬のような瞳に、俺は身構えることも忘れて、
苦笑い。
「……すごい荷物……大丈夫?」
「うん。次、美術だから。なんかこれ持っていってくれって先生に頼まれたんだ」
笑って、手にしてる紙袋をみせてくる。
「……そっか」
「大野さんは?移動教室?」
「……ううん。自習だから……図書室に行こうかと」
無邪気な問いに、適当にこたえる。
ほんとは、体育だから保健室でサボろうとしてるところだった。
昨夜は、なんだかあまり寝れなくて、だるかったからだ。
いつも、真面目に授業をうけてると、こういうときに役立つ。
「ふーん……ね、ところで、今日放課後時間もらえる?」
「え……?」
松本の唐突な言葉に、視線をあげた。
「勉強、教えてほしいところがあってさ」
俺はあわてて首を振る。
「……俺じゃ分からないよ。お兄さんの方が……」
「明日提出なんだ。でも兄貴は今日は遅いからさ」
「でも……」
「古文。大野さん得意って言ってたでしょ」
「……まぁ……」
「じゃあ、図書室で。待ってるね」
松本は言って、駆け出して行く。
こいつはこんなに押しの強いやつだっただろうか。
俺はメガネを押し上げて、ため息をついた。