第4章 夕虹
洗いざらしで、いまだに湿ったままの智の髪の毛からは、甘いシャンプーの香りが匂い立つ。
胸元からきこえる穏やかな寝息と、規則的に揺れる肩。
よくみればシャツのすきまからみえるうなじにもキスマークが散ってる。
……どんだけつけられてんだ。
ひどいことされてなきゃいいけど、と願いながら、彼の背中を優しく擦った。
薄い体に、ちゃんと食べてるのかなぁ、と、心配になる。
こんなに蒸し暑い夜だというのに、小さなベッドで二人の男が抱き合って寝てる様は、知らない人が見れば不可解極まりないだろう。
……キスまでしといてなんだけど、智と俺は恋人でもなんでもない。
智が俺に求めるのは、安心する胸と甘えれる場所のみ。
体を重ねることはない。
この、過剰なスキンシップという名のキスや、添い寝は、一時期、うなされて悩んでた智が無意識に助けを俺に求めたものの結果だった。
……それは、彼がちょうど、裏のバイトを始めた頃だった。
不特定多数の相手、しかも男に、体を開くことに慣れてないが故の、体からのSOS。
最初は俺も戸惑ったけど、うなされる智を見てられなくて。
伸ばした智の手をとった結果、ズルズルとこんな関係が続く。
でも、決して嫌じゃなかった。
保育園の頃からの付き合いの智は、俺にとって大事な友人だったから、頼りにされたことが、逆に嬉しかった。
しかも、最初は、少し特殊なこの関係が、なんだか秘密めいててくすぐったくさえ思ってた。
俺より、少しだけ小柄な智は、可愛らしい容姿をしていたから、性別さえ気にしなければまるで疑似恋愛みたいだったから……。