第4章 夕虹
三和土でスニーカーをはいてると、近づいてきた大野さんが、
「いろいろとありがとう……」
と、小さく呟いた。
その消えそうな声に、
「ううん、こちらこそ急に泊まらせてくれてありがとう」
俺は、殊更に明るく振る舞った。
「起きてこなくていいよ。今日はちゃんと寝てるんだよ?」
「……うん」
青白い顔。
口元の傷は、いつかの自分をみてるみたいで、正直辛い。
昨日のあいつに、相当手酷く扱われたのか、今日の大野さんは足取りもおぼつかなかった。
……ちょっと……体が痛いんだ……と、目を覚ました大野さんは笑った。
俺は、一日寝てるように大野さんにお願いした。
日曜日でよかった、と思った。
「食べかけのパン。あとで、ちゃんと全部食べるんだよ」
「うん」
「水分も」
「……うん」
独り暮らしの大野さんちには、見事に何もなかった。
冷蔵庫の中は、水のボトル。
あと、いつのだ?というような、海苔の佃煮やら、しなしなの塩昆布みたいなご飯の友がいくつかだけで。
急に泊まりにきた立場だから、飯にありつこうなんて思ってなかったけど、これじゃあ、この家の主の大野さんですら、何も食べるものないんじゃないの?と心配になった。
大野さんより早く起きた俺は、テーブルに置きっぱなしの鍵をかり、施錠して、駅前のコンビニにでかけた。
昨日の夜にあんな状態だった大野さんは、朝になっても何となく具合が悪そうな顔色をしてるし。
自分の手持ちで、買える範囲で、ジュースやパンを買い込んだのだ。
「……また明日ね、大野さん」
「うん。……またね」
俺は、にこりとわらって静かに扉を閉めた。
大野さんの具合が悪いって雅紀さんに知らせようか迷った。
理由なんてどうとでもなる。
大野さんの体の方が俺は、心配だった。
でも、言わないで、と悲痛な声をあげた大野さんの表情を思い出して……明日、大野さんが学校を休んだら
、俺が様子を見に行こうと、考え直した。