第4章 夕虹
ふりむけば、裸同然の格好のまま、うつぶせになり枕に顔を埋めたまま、ぼんやりとした目で、こちらを見てる智。
……あー、こりゃもう寝るなぁ
俺は体をずらして、ベッドの下にあるプラスチックの収納ケースから、智がパジャマがわりにつかってる大きなTシャツを引っ張り出した。
それをぽい、と智の体に投げてよこす。
「ほら、これ着て。裸で寝たらダメだって」
「……着せてー」
智は、ころんと仰向けになり両手をあげた。
「……自分でできるでしょ」
俺は苦笑いして、スマホのアプリを終了させた。
目の前では、智が寝転んだまま、けちー、と言いながら、器用にもそもそとTシャツを着てる。
……こんな無邪気な智は、きっと俺しか知らない。
学校では、地味に過ごしてるみたいだし。
バイトでは……よく知らないけど、忙しいところをみると、表も裏も充実してるのだろう。
だけど、その俺でさえ、智のことを全部知ってるわけではないのだ。
そもそもが、中学生がたった一人で部屋を借りたり、行政のもろもろの手続きをできるわけないから、誰かしらの大人とは繋がっているのだろうけど。
……そんなことまで俺は、関与してないし。
「ニノ……?」
「……なに」
俺にできるのは、智が素に戻れる時間に、時々寄り添うことくらい。
「キスしてよ……」
「……うん」
俺はベッドに乗り上がり、智の冷たい唇に、そっと自分の唇をあわせた。