第4章 夕虹
お金が欲しい……か。
ふんわりした容姿を持つ智には、不似合いなほど現実的な欲求。
だけど、彼のおかれてる境遇を考えたら、その言葉はわからないでもなかった。
智に母親はいない。
まだ小さい頃、外に男をつくってでていったという。
その後、男手ひとつで彼を育ててくれていた寡黙な父親は、工事現場の崩落事故に巻き込まれ、亡くなった。
智が中学三年のときだ。
その葬式には、智の幼馴染みである俺も参列したが、今でも強烈に覚えてる。
智は凛と前をむいていた。
父との時間を忘れまいとでもするように、じっと遺影を見つめていた。
一方で、焼香の列に並ぶ俺たちには、深々と頭を下げ、最後まで取り乱すことはなかった。
そのかわり、周りの人間が、彼のかわりにたくさん泣いていた。
一人になった智を案じ、なんでも頼ってね、と口々に声をかける。
……でも、どれだけの人たちが、智に本当に手をさしのべてくれたのか。
智がある日ぽつりといったことがある。
「ねぇ……ニノ。やっぱさぁ……最後に信じれるのって自分だけだね」
どういう意図で言ったのか。
よくわからなくて、思わず、どういう意味?と聞き返したけど、智はそれに答えることはなかった。
だけど、その後、智は突然今のこの部屋に引っ越した。
そして、国や学校のいろんな制度を利用し、高校生に
なって……今に至る。
「……ニノ?」
「…………ん?」
「こっち来てよ……」
ベッドの上から半分寝ぼけたような声で呼ばれ、我に返った。