第4章 夕虹
立ち上がりかけた体を、そのままゆっくりとスツールに戻す。
「はぁ……はぁ……」
手が震える。
体が強ばる。
二度と見たくない顔だったのに……、まともに確認してしまった。
「気持ち悪い……」
脳裏にあいつの声が甦ってくる。
キモチイイ……
サイコー
モット……クチアケロ
俺は、耳を押さえ、その場にうずくまるように、小さくなった。
……いやだ……気持ち悪い……!
大野さん……!!
……落ち着くまでどれくらいかかったかわからない。
幻聴がやむ。
手の震えもなんとかおさまってきたのを確認して、俺は、二、三度深呼吸をして、少しずつ背筋をのばした。
大丈夫……大丈夫。
いつまでもこんなところにいるからだ。
早く帰ろう。
冷や汗の滲む額を手の甲でぬぐい、ふと顔をあげ……目を剥いた。
「お……」
思わず声がでた。
ホテルの出入り口から、でてきた小柄な人物。
キャップを深くかぶってるから表情はわからないが、あのシャツは、一緒に昼間でかけたときのまま。
よかった……泊まりではない。
声をかけようかと思ったけど、あとをつけたのがばれるのはちょっとまずいな。
迷いながら、歩いて行く姿を目でおう。
すると、大野さんは、ホテルの出口からでてきて、数メートル進んだ先の電信柱にもたれかかり、その場にうずくまった。