第4章 夕虹
「……いつまで続けるの?こんなやばいバイト……」
俺はたまらずに、今までに何度も何度も繰り返してる台詞を、もう一度口にする。
すると、智もいつものように、困ったように黙って微笑んだ。
「……あと、100万貯めたらやめる」
「こないだと同じこと言ってる……」
「だって、言うほど稼げないんだぜ?」
「そういうことじゃないよ。ばれたら捕まるんだよ?」
「そんなヘマはしない」
「サトが気をつけてたって、誰かに見られたらおしまいじゃん」
「見られるようなとこで、そんないかがわしいことするわけないだろ」
「でも……」
「ニノ」
「…………」
「大丈夫。ありがとうな」
「…………お礼なんていらない」
俺はスマホをぐっと握りしめてうつむいた。
こうやって、いつものらりくらりとかわされて、結局俺は黙るしかない。
口下手なはずなのに、自分の想いを曲げることをしない人だから、最終的にこちらが口をつぐむしかなくなるんだ。
俺が、黙りこんだのを見て、智は軽く息を吐き、ころんとベッドに寝そべった。
部屋の隅でまわってる扇風機から、そよそよとした風が送られてくる。
「……気持ちいーなー」
と、呟く智に、
「……服着ないと風邪ひくよ」
と、忠告してやるのが精一杯だった。
智がやってるバイトとは、表向きは、カジュアルバーの接客のバイトである。
それだって年を誤魔化して潜り込んでるんだから、バレたらめちゃくちゃまずいのに。
店長が認めた口の固い……しかも、金持ちの客のみに、個人的な接客もしているという。
個人的なとは、……つまりそういう行為も含めてだ。
智がそれを知ってたうえで、このバイトを選んだのかは、教えてくれない。
でも、そんなバイトやめなよ、と諭した俺に、智はきっぱりと、
「俺は金が欲しい」
と言った。