第4章 夕虹
「……ああ、これ?」
大野さんがフレームに手をかけて、ちょっと考えるように唇をかんだ。
そして、俺を上目遣いでみつめ、言った。
「……実はさ。これ、伊達なんだ」
「……え!」
いや、家でもバイトでも大野さんは素顔だったから、メガネなしでも生活できるくらいの視力なんだろうな、とは思っていたけれど。
「……どうして……?」
メガネもいいけど、素顔の方が絶対にいいのに!という台詞は、ちょっと恥ずかしくて、この場でいうのは憚られた。
そして、その理由は、
「……バスを降りたら言うね」
と、大野さんが言うから、あまり大きな声では、言いたくないことなんだろうな、と察した。
「……自分のなかで自分を切り替えるためにかけてるんだ」
学校までの道のりで、大野さんはそんな風に言った。
「学校での自分。KINGでの自分を分けないと、なんだか自分の人格を見失いそうでさ……」
「……人格…?」
「俺……全然別人でしょ?学校と……バイト先」
「……そうかな」
どちらも人当たりよく穏やかな存在とみている俺には、よくわからなかった。
後に、これは、もうひとつのバイトのことを言っていたんだと知ることになるんだけれども。