第4章 夕虹
「違う」
だけど、なぜか雅紀さんは、即座にそれを否定した。
その意味がわからず、内心イラっとしながら俺は思わず運転席の雅紀さんを仰ぎ見た。
「何が違うんですか」
答えは出てるじゃないか。
「……違うんだよ。いま、智に恋人はいない。知ってるんだ俺は」
雅紀さんは、困ったように前方を見つめながら、もう一度否定した。
SUVは、右折の車をよけるため、僅かに減速する。
「知ってるって……?」
何を……?
からからになった喉から、押し出すように問いかけた。
雅紀さんは、サイドミラーを確認し、ハンドルをきりながら、俺をちらっと見た。
そうして、首を振る。
「それは言えない。でも、智は今フリー。これだけは確かなんだ。恋人はいない。絶対」
「…………フリー」
いやに断言する雅紀さんの言葉に、しおれかけた気持ちが、少しだけ立ち直る。
「……少し様子をみよう。なにか理由があるのかもしれない」
「…………」
雅紀さんは、呟きながら、ナビゲーションに従って、細い道にはいっていった。
もうすぐ俺の家だ。
俺は、朝から呼び出し、あまつさえ家まで送ってもらったことを雅紀さんに感謝する。
「……ありがとうございました。よかったら寄って行かれますか」
すると、ずっと難しい顔をしていた雅紀さんは、ようやく笑顔をみせた。
「ううん。智を寝かさないといけないから帰る。……翔ちゃんによろしくね」
雅紀さんはハザードをたいて減速した。
俺はどうするともできなくて、はい、とだけ頷いた。