第4章 夕虹
やがて、痕跡をすべて洗い流してきた智が、パンツ一枚で浴室からでてきた。
首からかけたタオルで、髪の毛からポタポタ落ちるしずくを乱暴に拭き取ってる。
いくらかスッキリした顔になってる智は、冷蔵庫をのぞきこんでぼやいた。
「あー……もうなんもないや。ニノ、サイダーいる?」
「いらない」
「そ?」
ぷしっとプルタブをあけて、缶をあおりながら歩いてきた智は、俺がもたれてるベッドにぼすっと座り込んだ。
狭いこの部屋は、ベッドを置いたらほぼそれで場所をとる。
なので、俺は、壁とベッドのすきまに、お山座りをしてスマホゲームをしていた。
智が後ろから俺の手元をのぞきこんだ。
「またそれ?好きだね」
パズル系のこのゲームは、俺は得意で大好きだけど、智は超苦手だ。
一度やらせたら、ソッコーゲームオーバーになってた。それ以来このゲームをしてると、智は嫌な顔をする。
……ガキみたいに。
「あ、ニノ、今俺のことバカにしたでしょ」
「してねーよ」
「うそ。した。そんな顔した」
「してねーって」
長い指で、俺の鼻をつまもうとするから、笑って顔を背けた。
その拍子に、智の裸が目に入る。
白くきめ細かい肌に、無数に散る赤い跡。
水泳の授業の前は気を付けるっていったくせに、いったい、どうするつもりなんだか。
「……派手につけられたね」
ぽつりと指摘してやると、智は、
「んー、今日は常連さんだったからね」
と、のほほんと笑って、空の缶をぺこっとつぶした。