第4章 夕虹
「欲しくないってば……」
「だめだ。ほら、口あける」
動揺を全くみせない雅紀さんは、しぶる大野さんに無理矢理、野菜の粥を少しだけ食べさせた。
うえー……と、まずそうな顔をしてる大野さんを、俺は、ただ見つめてた。
「夏風邪だと思うよ。今日一日おとなしく寝てること」
雅紀さんに諭されて、大野さんは、ぶうたれた顔で頷く。
ゆっくり横になった大野さんは、俺を見上げて、ごめんと言った。
「……せっかく来てくれたのに。もっといろいろしゃべりたかったね」
「……また来るよ」
だが、俺はといえば、さっきの、キスマークが頭から離れないから、作り笑いしかできなくて。
「……はやく元気になってね」
昨夜、彼を抱きしめて寝た、ときめいた気持ちは、綺麗さっぱりなくなった。
かわりにあるのは、戸惑いと……どろどろした黒い気持ち。
大野さん……誰にそれをつけられたの?
恋人いないんじゃ……なかったの。
俺……うまく、笑えてるかな?
「智。松本くん送ってくるから。俺が戻るまでちゃんと寝てるんだよ?」
雅紀さんが、車のキーを手にして立ち上がり、俺の腰をぽんと叩いた。