第4章 夕虹
大野さんだ……。
目の前を横切ってゆく彼は、俺に全く気づいてない。
だが、声をかけるのはためらわれた。
なぜなら大野さんに連れがいたからだ。
兄貴と同じくらいだろうか。
仕事帰りのような格好だから、大学生ではなさそうだ。
茶色の明るいサラサラの髪。
小さな頭にすらりとのびた長い手足。
モデルといってもおかしくないような見た目は、美形の大野さんと並ぶと、なかなか目立つ二人連れに思えた。
立ち止まり黙ったままの俺に、兄貴も足をとめて怪訝な声をかけてくる。
「……潤?」
「………あ…うん」
俺は、大野さんから目を離せないまま生返事をする。
話すでもなく、淡々と歩いている彼らが、ちっとも楽しそうじゃないのが気になった。
まっすぐ前を向いてるモデル男に比べ、大野さんはうつむき加減で、ただ歩調をあわせてる感じで。
……兄弟だろうか。
歩いてゆく二人の後ろ姿を見ていると、繁華街の明るい通りから、ひとつ奥の道に入っていった。
なんだか、気になり、追ってみたくなる。
「ね、兄貴。あっちにもゲーセンあるかな?」
言いながら歩きだしかけると、兄貴の手が俺の腕をがしっとつかんだ。
「ダメだ。あっちは」
「……?なんで」
俺が目で追ってた二人の後を追う気だと察したのか、兄貴は少し真剣な顔になった。
「さっきの二人は知り合いか?」
「え……」
「あれ、まさか高校生じゃないよな?」
……どうしようと思ったけど、兄貴の少し真面目な顔につられて、うん、と言った。
「ならいいけど。あっちの道は、いわゆるそういう店ばかりだから。おまえみたいな健全な高校生が行く場所じゃない」
「……え?」