第4章 夕虹
雅紀さんには言えないけど……兄貴の言い方は、なんだか、相手を蔑んだ言い方だった。
兄貴は、ノーマルだって知ってる俺も、かつての想いを否定されたようで傷ついたし。
「……あの人、家では、ダサい格好してますよ」
「えー……ほんと?」
なんか想像できないな、と笑う雅紀さんに、俺は、ほんとですよ、と笑ってみた。
男同士が、万人に受け入れられるなんて、俺だって思っちゃいない。
けど、それぞれの想いは尊重されるべきだと思うから、軽々しく否定なんてしてはいけないと思うのだ。
雅紀さんは、男の人が恋愛対象なのかもしれない。
そして、聡い兄貴は、きっとそんな雅紀さんのことに気づいていたのだろう。
もしかしたら、……推測ではあるけれど、雅紀さんは兄貴のことが好きだったかもしれないし。
兄貴は、受け入れられない、とそのとき思ったのだろうか。
「……それよりさ、松本くん」
笑いをひっこめた雅紀さんは、ちょっと真剣な顔になった。
「……はい」
「……昨日のことなんだけど。被害届だすかい?だすなら警察に知り合いがいるから……」
「いえ」
俺は、雅紀さんの言葉を遮った。
「……いいです」
「……犯罪だよ?」
「未成年があんなとこウロウロしてたのも……立派な補導対象でしょ」
「そうだけど……」
「……なんかの弾みで、大野さんと知り合いなのがばれたら困る。俺、大野さんに迷惑かけたくないんです」
俺は、きっぱりと言った。