第4章 夕虹
俺の初恋だった。
年の離れた兄貴の姿が、スーパーマンのようで、誇らしくて……大好きだった。
かっこよくて勉強もできて。
ちょっと走るのが遅いのはご愛敬だ。
翔兄さんカッコいいね。
周りにいわれるたびに嬉しかったもんだ。
でも、兄弟でしかも男同士でこんな感情をもつ自分が不安で。
これっていいのかな。
やっぱダメだろうな。
そんな二つの想いのはざまでずっと思い悩んでた。
無邪気にじゃれつくことも、好きだとうちあけることもできなかったから、結果的に、微妙な距離を保つことを覚えたのが中学の頃。
……兄貴に彼女ができるたびに、モヤモヤしていた。
だから、あてつけのように兄貴が大学で遊んでるときは、俺も中学で遊び回ってた。
勢いで童貞を捨てたのもその頃だ。
足掻いてた……ものすごく。
『真剣につきあってる』
大学を卒業した兄貴が家に彼女をつれてきて、父さんと母さんに紹介してるのを目の当たりにしたとき……やっと、すべてをあきらめる決心がついた。
俺は、翔の弟。
それ以上でもそれ以下でもない。
ずっと彼の肉親でいられるなら、それもいいのかも。
そう思えるのにそれから一年かかった。
「……潤?」
「……ん?」
「おまえこんだけ注文して今さら食わねえとかないよな?」
いつのまにか、俺たちのテーブルに届けられた大皿には、つくねや、皮など、俺が調子にのって注文したものがてんこもり。
なのに、それにも、気がつかないほどぼんやりしてた俺に、兄貴が怪訝な顔をしてる。
「食うよ……食う」
「頼むぞ。俺はいらねぇぞ」
「兄貴もちっとは食えよ。だから細いんだよ」
「ばっか。俺は太りやすいんだぞ」
「走ればいーんだよ。運動したら?」
「おまえ!それをいうか!」
わあわあ言いながら、串に手をのばす。
……そう。こんな関係でいいんだ。