第4章 夕虹
「……知ってるけど」
だからどうした、みたいな口調ではあるが、ちゃんと反応してくれたことに、初めて会話が成り立ちそうだ。
俺は、実は……と、さっき風間に聞かせたように朝の出来事を話した。
大野さんのことを知りたいが故だった。
すると、ますます二宮の目が鋭くなり。
「え……それで、サト…いや…あの人は?もう大丈夫なの?」
食いぎみに聞いてきたから、俺は驚きながらも答えてやる。
「……多分な。でもまだ目眩が残るからって、そのまま保健室行ってたけど」
すると、二宮は、だから言ったのに……、と小さく呟いて、前髪をかきあげた。
その仕草、その呟きが、本当に自然で。
俺の思う以上に、二宮は大野さんと親しいことが見てとれた。
だから、思わず聞いてしまった。
「……どんな人?」
「?」
二宮は、何を聞かれてるのかわからないという顔で、俺を怪訝な目で見る。
聞いた俺も、自分何いってんだ、と自分につっこみながら、取り繕うように早口で言った。
「いや……大野さんって。すごく綺麗な人だったから。どんな人なんだろう……って」
「…………綺麗だっつったら、あの人機嫌悪くなるから言わない方がいいよ」
二宮は、冷たい目でそれだけを言い、くるりともとの体勢にもどって、体を伸ばし始めた。
その背中は、この話題の完全な拒絶を表してる。
さすがの俺もそれ以上聞くことはできず、二宮の背中を再び押した。