第4章 夕虹
「……っ……」
兄貴に殴りかかりそうになった拳を、ギリギリの理性で押しとどめた。
兄貴は黙って、そんな俺を見つめてる。
その目に耐えられず、ぶるぶる震える握りこぶしに、ぎゅっと力をこめ、机の上に放り投げてる財布とスマホをわしづかみにして部屋を飛び出した。
「潤!」
「うるせぇっ!!」
兄貴が俺の名を呼んだけど、秒で怒鳴り返した。
怒りのあまり、涙すら滲む目を擦り、靴をひっかけて家を出て全力で走りだす。
目的なんか何もなかったけど、とにかく走って走って……幼い頃によく来た隣町の運動公園が目にはいり、そこに飛び込んだ。
はぁはぁと息を弾ませ、流れる汗を腕でぬぐいながらようやく少しずつ歩を緩める。
何に腹が立ってるのか、自分でも整理がつかない。
感情がカオスだ。
……大野さんを悪くいう兄貴が嫌だ。
偶然とはいえ、俺をさしおいて兄貴が大野さんに会えてるのも嫌だ。
大野さんがいい人だと、兄貴にいまだ分からせられない自分が嫌だ。
ゲイの男の人といた、と。大野さんがその人と恋人同士だろうと決めつけられたのも嫌だ。
そもそも、ゲイという言葉に、兄貴が嫌悪感を感じてると気がついてしまったのも嫌だ。
……それによって、過去とはいえ、俺の兄貴への想いをまるごと踏みにじられたようで嫌だ。
もう何もかも……!
「……嫌だ……」
俺は、ぽとぽとと、汗と一緒に涙を落としながら、木立にある東屋に崩れ落ちるように座った。